「地下室」へ降りていく
2009年8月20日


少し前の話ですが、村上春樹のサンフランシスコ郊外のUCバークレーにての講演の模様を伝える記事を載せたサイトがあります。
「村上春樹に会いに行く」と題されたPresident誌の2008年の10月の記事です。

この講演で春樹は自分の日々の執筆活動について概ねこのように述べたと記事は伝えています。


質疑応答で、村上さんが話したことの中でとくに印象に残ったのは、「ダークプレイス」の話だった。

僕は夜9時に寝て、朝4時か5時に起きて、3、4時間ほど書きます。早朝に起きて心の中の「地下室」までおりていくんです。そのあと、太陽のもとでジョギングをする。もう、25、6年走っている。暗さと明るさのバランスをとるんです。ダークプレイスに行くためには、肉体的にタフでないといけません。そこから帰ってくるには強くないといけないんです。強くなければ帰ってこれなくなってしまう。僕は「創作(make up)」しているのではなく、ダークプレイスで「観察(observe)」しているのです。心の奥底にあるダークプレイスまでに深く入っていくのは、危険で恐ろしいことです。世の中にはそこまで降りていかない人もいますよ。でも本当に、真剣に、何かをしようと思ったら、そこへ行かなくてはならない。 早朝に起きて春樹は「地下室」というダークプレイスへひとり降りていく。そしてその魂の「地下室」で彼はその模様を「観察」しているのだと。。。


こうした作業は相当の精神的・肉体的なタフさがないと続けられるものではありません。

ボクもひとりでアメリカに留学していた頃のことや、海外へ生徒を引率して一ヶ月ホテルにひとりで話し相手もなく泊まっていた時のこととつい比較してしまうのですが、それは実に精神的に辛い日々です。 一昨年の夏も学生とサンフランシスコ郊外のフリーウェイとショッピングモールくらいしか何もない街のホテルでじっと暮らしましたが、ホームステイしてる学生が一人きりのボクのことを本気で心配してくれたほどです。

並の人間は春樹の真似なんてしないことです。 小説家に限らず、優れた芸術家と呼ばれる人たちの日常は「自分の魂の奥底にあるダークプレイス」から決して目をそらさず、ただ一人でのぞき込むような生活なのでしょう。そこから彼らは自分の作品を作り上げていくわけです。途方もないほどの精神的・肉体的強靱さがなければとても出来ない話です。 酒でも飲んでカラオケを歌って楽しく浮かれてるようなボクなんかにはとても真似は出来ません。