宮脇俊文著 『村上春樹ワンダーランド』 2009年6月28日 ![]() 宮脇俊文さんという成蹊大学の先生が書かれている『村上春樹ワンダーランド』」は本自体がワンダーランド風に仕上がっていて、あちこちに興味深い記述があり楽しくパラパラと読んでいます。 よく「文は人なり」と言いますが、その人が書く文章を読むと当人の有様が何とはなく察せられるということです。ボクも仕事柄、学生のレポートを読 んだり、どこかの博識な先生が力を込めて書いた研究書を読んだり、小説を読んだり。。。と様々な文章を読むことが多いのですが、この「文は人なり」という 言葉がそうした時脳裏をかすめます。 大学の先生が書かれた研究書、中身は非常に鋭い考察と広い視野を感じさせるものも少なくありません。ただ先生が書く文章というのは、奇妙に「読みづらい」ものが多々としてあります。 いわゆる文体の問題です。文章の持っているリズム感のようなものと言ってもいいのかもしれません。 この本で宮脇先生はかつて村上春樹が経営していた「ピーターキャット」というジャズ喫茶に足繁く通った経験のあるジャズ評論家の小野好恵さんの言葉を引用して、村上春樹の文体について述べている箇所があって興味深いです。ちょっと引用すると 一般的に、村上はアメリカ文学との深い関係を指摘されることが多い。したがって彼の文体もフィッツジェラルドやカポーティらの影響を強く受けてい るにちがいないと考えるのも無理はない。しかし、小野好恵はそれよりもスタン・ゲッツの影響が大であることを強調している。村上の「スマートな語り口」 は、ゲッツから学んだものであるというのである。 今世紀が生んだ最大の芸術であるジャズは、言うまでもなくアメリカの黒人がクリエイトしたのである。しかし、表現として普遍性を持つがゆえに、 白人にとっても日本人にとってもジャズは強力な吸引力を発揮する。白人であるスタン・ゲッツにとってジャズを自らの表現として択ぶことは、白人からも黒人 からも現実的な差別に直面することを意味した時代だった。ゲッツが様々な困難を乗り越えて獲得した音は、クール・サウンドと呼ばれ、黒人にはまったく表現 できない独自な世界だった。ゲッツのジャズのクールさとスマートさは黒人のジャズに対する距離感の表現であり、見事な批評となりえていた。 (「村上春樹ワンダーランド」 <ピーター・キャット>は知らないけれど -- 村上春樹とジャズ-- : 白人のジャズしか流さなかった より pp.72-73) この小野好恵さんの言葉にあるスタン・ゲッツのクール・ジャズとはスマートで抑制のきいたジャズです。このブログも彼のジャズを聴きながら書いているのですが、たしかに小野さんが言われるようにスタン・ゲッツ的な雰囲気とリズム感を村上春樹は彼のジャズを聴きながら体にしみ込ませたのかもしれませ ん。 |